毎年、世界 SF 協会はヒューゴー賞（Hugo Awards）を授与し、その年の最高の SF およびファンタジー作品を表彰します。これはこのジャンルの最高の栄誉です。
この賞は、『驚異の物語』（Amazing Stories）雑誌の創設者であるヒューゴー・ガーンズバック（Hugo Gernsback）の名前にちなんでいます。彼は SF ジャンルの普及に貢献したため、「SF の父」の一人と称されています。しかし、ガーンズバックの関心は SF 小説に限らず、彼は実験や発明に熱心な愛好者でもありました。『驚異の物語』を出版する前、彼はアマチュア無線技術の台頭と進化を記録し、積極的に関与していました。
彼は SF の歴史における役割で記憶されていますが、ガーンズバックは独立した重要な執筆スタイルを開発しましたが、このスタイルはあまり知られていません。彼は典型的なカタログ作成者（cataloger）であり、記録者、供給者、そして新興アマチュア技術シーンの支持者です。
カタログ作成は特定のタイプの執筆であり、技術コミュニティと共に発展し、特定の技術やツールセットの運命を形作る上で積極的な役割を果たします。カタログ（Catalogs）自体は短命で周期的であり、彼らがカバーするシーンに応じて興隆と衰退を繰り返します。しかし、カタログ作成のスキルと重要性は永遠に存在します。ガーンズバックはその道を示しました。
彼の成績表を見ると、ガーンズバックは物理以外のすべての科目で普通の学生でした。彼は子供の頃から読書を愛し、H.G. ウェルズやジュール・ヴェルヌを特に好んでいました。そして、電力プロジェクトを夢見ていました。1904 年、彼は 19 歳でニューヨーク市に移民し、すぐに働き始め、彼の情熱をかき立て、彼のデザイン理念を表現しました。最初は『サイエンティフィック・アメリカン』誌に掲載されました。さらに、彼はロウアー・イースト・サイドに自分の店を開設しました — — エレクトロ・インポーティング・カンパニー（Electro Importing Company）で、ヨーロッパから電気機器を輸入して販売しました。この企業は全国の無線技術のために最初の郵送カタログの一つを作成しました。顧客の大半は同業者の愛好者でした。
カタログは『モダン・エレクトリックス』（Modern Electrics）雑誌に進化し、操作マニュアルや小冊子などの出版プロジェクトを派生させました。その広範な影響力を持って、ガーンズバックはアメリカ無線協会の設立を助け、無線メーカーのネットワークを組織しようとしました。ガーンズバックは、単に機器を提供するだけでは不十分であり、情報と想像力の伝播者になる必要があることを認識しました。以下の文章は、グラント・ウィソフ（Grant Wythoff）が編集した『事物の反常：ヒューゴー・ガーンズバックのメディア、修理、そして科学小説について』（The Perversity of Things: Hugo Gernsback on Media, Tinkering, and Scientifiction）の紹介からの抜粋です。この本はガーンズバックの作品を分析し、収集したものです。
彼の月刊社説、特集記事、短編小説の中で、ガーンズバックは厳密な技術的記述と幻想へのオープンさを組み合わせた執筆スタイルを開創しました。特定の機器、体験、または未来のビジョンを記述するために、交差する記述的および物語的なフレームワークを通じて、ガーンズバックは最も微細な技術の進展を追跡し、それらが到達する可能性のある最も遠い程度を推測しました：光感応合金の可用性の増加は、可視電話の到来を意味し、多くのアマチュアが自分で設計した原始的なテレビ受信機を提出し、この新しい通信手段が間もなく到来することをさらに証明しました。
SF 小説の世界構築と物語は、アマチュアが利用できる実際のツールと密接に結びついています。この組み合わせは、読者が自分の実験に持ち込む機会を提供します。時には、ガーンズバックは直接介入し、彼が最も見たい発明を列挙しました。『電気実験者』（The Electrical Experimenter）（彼の多くの後続の刊行物の一つ）のある号では、彼は次の偉大な発明のための短いリストを挙げました：電線絶縁、蓄電池外装、強電流マイクロフォン、遠隔音楽などです。彼は「次は何か」という供給を絶え間なく行うことを確保しました。
タイプ
カタログ作成者の原型は一貫しています。彼らは本質的に作家であり、通常は正式な訓練を受けていません — — 一種の臨時のジャーナリストのような存在です。彼らはしばしば小規模なビジネスを運営し、現場でツールキットや機器を販売しているため、カタログ形式を採用していますが、これらの企業は良好な財務結果を持つことは稀です。ガーンズバックの他にも、著名な例としてはスチュワート・ブランドの『ホール・アース・カタログ』（Whole Earth Catalog）、ティム・オライリー（Tim O’Reilly）の O’Reilly Media 技術書、ダレル・ドハティ（Dale Dougherty）の『メイク：マガジン』（Make: Magazine）などがあります。
これらの例の間には顕著な類似点があります。カタログ作成者が提供する内容は、伝統的なニュース報道や金融投資とは異なり、彼らは代理人です。ツール、情報、そして想像力の組み合わせを通じて、彼らは新しいコミュニティの周りに地図を描く手助けをします。
もし彼らに自分の仕事を説明させると、目的のない答えが返ってくるでしょう。スチュワート・ブランドが言ったように、「私は物事を見つけ、物事を設立します」（I find things and found things.）。
もし彼らにそれをどうやって行うのか尋ねると、もっと異なる答えが返ってくるでしょう。ダレル・ドハティ（Dale Dougherty）とティム・オライリー（Tim O’Reilly）にインタビューした際、私はこの質問を直接尋ねました。オライリーは、どのような技術が存在すべきかを理解するために心の地図を保持すると述べました — — これは「見たらわかる」（know it when you see it）というスキルです。ドハティは彼の情熱に従っていると述べました。彼は 1991 年の学術的なハイパーテキスト会議でティム・バーナーズ＝リー（Tim Berners-Lee）と出会った話をしました。主催者が Web を面白くないと考えたため、バーナーズ＝リーは主要なセッションではなくポスター展示のセクションに降格されました。しかし、ドハティはそのプロジェクトに興味を持ちました。会議の他のすべての内容は進展が遅く、退屈に感じられましたが、バーナーズ＝リーは彼が自分でできること — — ウェブページを作成すること — — を提供しました。ドハティは新しいネットワークの支持者となりました。
どんなスキルであれ、それは広く移転可能なようです。彼らのキャリアの中で、カタログ作成者はしばしば複数のシーンでこの役割を果たします。ブランドは自分の興味に従っていくつかの分野に入ったことで知られています：60 年代の反主流文化運動、環境運動、パーソナルコンピュータ業界などです。オライリーとドハティはネットワーク、オープンソースソフトウェア、そしてメイカームーブメントなどの分野で重要な役割を果たしています。カタログ作成の観点から見ると、この多様なキャリアパスは完全に合理的です。彼らの正確なタイミング — — 技術史の重要な瞬間に現れること — — は自己強化的です。物事が面白くなると、彼らは関与し、彼らが関与すると、物事はさらに面白くなります。
もう一つの注目すべき影響の連鎖があります。私たちが OpenROV（私たち自身がアマチュア海洋技術の応用シーンを立ち上げようとした時）を始めたとき、私たちはクリス・アンダーソン（Chris Anderson）を模倣しました。彼は『ワイアード』誌の編集者として、彼のウェブサイト DIYDrones.com を通じてアマチュアドローンの分野を記録しました。ドハティは O’Reilly Media で彼のキャリアの大部分を過ごしました。若いティム・オライリーは、最初の執筆目標がブランドの『CoEvolution Quarterly』に記事を掲載することでした。彼らがそれを定義できなくても、カタログ作成者はこの仕事に惹かれ、多くの人が自分を何らかの非公式な系譜に置くことができるようです。
ガーンズバックに関連するだけでなく、カタログ作成者は SF 小説と長い歴史を持っています。『ホール・アース・カタログ』は初版で『デューン』を推薦し、ティム・オライリーは『デューン』の著者フランク・ハーバート（Frank Herbert）の伝記を書きました。Byte 誌の初版はロバート・ハインライン（Robert Heinlein）の言葉を引用し、この雑誌は初期のパーソナルコンピュータ業界の発展を記録しました。『メイク：マガジン』の初版には SF 作家ブルース・スターリング（Bruce Sterling）とコリー・ドクトロウ（Cory Doctorow）の記事が掲載されました。アンナリー・ニュイツ（Annalee Newitz）が言うように、「カタログ作成者」（catalogers）はジャンルとより広範な「科学プロジェクト」の間に橋を架け、ロマンチックな要素を加えることで、静かで技術的な趣味を未来を形作る探求に変えます。
新しいアイデアを探し、解釈すること。
カート・ヴォネガット（Kurt Vonnegut）の小説『ブルー・ビアード』（Bluebeard）には、主人公ラボ・カラベキアン（Rabo Karabekian）という画家が登場し、彼が第二次世界大戦の退役軍人ポール・スラジンガー（Paul Slazinger）から学んだ貴重な教訓を回想します：
スラジンガーは、歴史から学んだことは、大多数の人々が新しいアイデアに心を開くことができないということです。特異なメンバーを持つ思想開放グループが彼らに働きかけない限り、生活は以前と同じように続くのです。たとえその生活がどれほど苦痛で、不合理で、不公正で、滑稽で、完全に愚かであっても。
彼は、このチームは三種類の専門家で構成されなければならないと言いました。そうでなければ、政治、芸術、科学、または他の分野での革命は必然的に失敗する運命にあると言いました。
彼が言うには、これらの専門家の中で最も希少なのは本当の天才です — — 一見良いアイデアを提案できるが広く普及していない人です。「孤独に働く天才」と彼は言いました、「常に狂人として無視されるのです。」
第二の専門家ははるかに容易です：そのコミュニティで良好な評判を持つ高 IQ の市民で、天才の新しいアイデアを理解し、賞賛し、その天才が決して狂人ではないことを証明します。「このような人は単独で戦う」とスラジンガーは言いました、「変革を渇望することはできるが、変革がどのような形を取るべきかを説明することはできない。」
第三の専門家は、ほとんどの人に満足に複雑な問題を説明できる人々です — — 彼らがどれほど愚かであっても、頑固であっても。「彼は自分を面白く、刺激的にするためにほとんど何でも言うだろう」とスラジンガーは言いました。「もし孤独に働き、自分の浅い考えだけに頼るなら、彼はクリスマスの七面鳥のように無意味なことを言うと見なされるでしょう。」
良いカタログ作成者は解説者であり、天才を発掘する者です。彼らは新しいアイデアの実現を推進する能力を持っています。スタートアップシーンにおいて、カタログ作成者からの承認は、プロジェクトや個人の名声を高めることができます。このような励ましは、誰かを誇りに思わせ、より大きな挑戦を受け入れる勇気を与えることもあります。ティム・バーナーズ＝リー（Tim Berners-Lee）は彼の回想録『ウェブを織る』（Weaving the Web）で、ドハティが初期のウェブでの影響力を持っていた話を語っています：
オライリーアソシエイツ（O’Reilly Associates）のダレル・ドハティ（Dale Dougherty）は第三の道を見出しました。彼は初期のウェブの創造者たちを第一回のエキスパートセミナーや他の会議に招集したことがあります。大会のあるディスカッションの後、私たちのグループは地元のバーに集まりました。私たちが高脚椅子に座り、グラスのビールをゆっくりと飲んでいると、ダレルは一人一人にこう宣言し始めました。SGML グループは時代遅れであり、HTML は最終的により強力になるだろうと。彼は私たちが SGML の世界全体を受け入れる必要はなく、それを無視する必要もないと考えていました。ダレルは微笑みながら静かに言い始めました。「私たちはそれを改造できます。」彼は「私たちはそれを改造できます」という言葉を呪文のように繰り返しました。
カタログ作成者は崇拝者ではなく、英雄の創造者です。彼らの執筆スタイルは独特で、興味に満ち、鼓舞され、革新的です。彼らは新参者やアウトサイダーを代表しています。彼らが著名な人物について言及する時 — — 例えば、ガーンズバックがトーマス・エジソンにインタビューした時 — — それは単に渇望の雰囲気を加えるためであり、偶像を崇拝するためではありません。グラント・ウィソフは、ガーンズバックの使命は「公衆を物事の製造に参加させることであり、物事に圧倒されることではない」と書いています。
ほとんどのカタログ作成者は同じ感情を抱いています。過去でも現在でも、ターゲットオーディエンスは新しいツールやより多くのサポートを求めている家庭の実験者たちのようです。彼らが形作る物語は常に未完成で、省略記号で終わり、読者が自分の名前を物語に書き込むよう導きます：「次に何が起こるかはあなたが決める…」
進化するフォーマット
新興シーンを記録する正しい方法は、時間の経過とともに変化し、通常は定期刊行物の形式を使用し、読者が物語、アイデア、貢献を提供することを大いに利用します。したがって、アマチュア技術シーンに関する書籍は数冊しかありませんが、これらの雑誌、カタログ、ネットフォーラムの編集ページには素晴らしい記事が散らばっています。
他の事柄と同様に、カタログ作成はオンラインプラットフォームに移行しました。かつて雑誌だったものは、今ではフォーラムや Discord サーバーに変わり、コミュニティの参加を促しています。クリス・アンダーソンは、DIYDrones がユーザーが決定した方向に自由に進化することが重要な決定であると書いています：
この区別 — — コミュニティが作成したウェブサイトであり、単一の個人によって作成されたニュースや情報サイトではない — — は、最終的にその重要性を証明しました。すべての良いソーシャルネットワークと同様に、各参加者（クリエイターだけでなく）は、すべての執筆ツールにアクセスできます。通常のコメントに加えて、彼らは自分のブログ記事を書いたり、ディスカッションを開始したり、ビデオや画像をアップロードしたり、プロフィールページを作成したり、メッセージを送信したりできます。コミュニティのメンバーはモデレーターに任命され、良好な行動を促し、悪意のある行動を防ぎます。このウェブサイトは参加を選択したすべての人に開放され、すぐにアイデアを交換し、自分のプロジェクトや研究報告を共有する内容で満たされました。
このウェブサイトはすべての人に開放されていますが、アンダーソンはその管理において重要なキュレーションの役割を果たしました。彼は最も頻繁な貢献者であり、新しい努力や発展の方向を指摘しました。彼は常にコミュニティにその行動を調整するより大きな背景を考慮するよう促しました。ガーンズバックのように、アンダーソンはしばしば荒唐無稽な新プロジェクト（タココプターなど）を強調したり、ダニエル・スアレス（Daniel Suarez）の SF 的なドローンの未来解釈（『キル・ディシジョン』[Kill Decision] など）を引用したりして、コミュニティに想像力豊かな新しいアイデアを注入しました。
しかし、デジタルプラットフォームがカタログのインフラをよりアクセスしやすくしたにもかかわらず、実際に新しく刺激的なシーンの数は安定した状態を保っているようです。あるいは、さらに悪いことに、デイビッド・チャップマン（David Chapman）が彼の論文「ギーク、MOP、そして反社会的人間」（Geeks, MOPs, and Sociopaths）で提起した見解は、サブカルチャーが文化的創造性のエンジンとしての役割をほとんど停止しているということです。これはどういうことでしょうか？
いくつかの可能な説明があります。その一つは、アマチュアシーンのリスク投資化です。リスク投資家はこれらのシーンから新しい会社が出現するパターンを認識しているため、彼らは以前よりも早く彼らのスカウトを派遣し — — 潜在的なプロジェクトに資金を提供します。早すぎる称賛はシーンのダイナミクスを妨害します。それはプレイヤーに大口顧客を探し始めさせ、互いに戦うのではなくなります。
もう一つの説明は、カタログ作成が独自のスキルとして評価されていないということです。この無名の状態は、それが認識されず、発展しない原因となります。もしそうであれば、問題は簡単に解決できます。単にそれに名前を付けるだけで済みます。私たちはこれらの人々を祝福していますが、彼らに共通の肩書きを与えることで、より多くの人々が挑戦することを奨励するかもしれません。
良いカタログ作成は特別な成功です。それは財務指標や著名な科学者が得た称賛によって測ることはできません。しかし、カタログ作成者は尊敬されており、その尊敬は持続的です。彼らは「英雄の中の英雄」（hero’s hero）となり、ジャーナリストのキャロル・カドワラ（Carole Cadwalladr）がブランドについて言ったように。ガーンズバックは賞を受賞することはありませんでしたが、賞そのものとなりました。
カタログ作成者は重要なことを知っていますが、大多数のスタートアップの宣伝はこれを覆い隠しています：技術の世界で最も純粋な楽しみは、大金を得たり、他の高い成果を得たりすることではありません。それは好奇心とアマチュア技術シーンの中で育まれた仲間関係から来るものです — — 可能性、個人の力、そして共通の情熱の混合体です。
どうやら、すべての世代は古いカタログ作成者のマニュアルを引っ張り出し、この永遠の物語を再発見し、語り直す必要があるようです。
原文：The Catalogers: Every scene needs a storyteller.